UP 2010.10.26 やまぼうし
大台ケ原の自然を歩く
■日時:2010.10.15(金) 天気 曇のち晴
■行先:奈良県 大台ケ原(東大台)、日出ヶ岳(1694.9m)
     2.5万地形図 大台ケ原山
■ガイド:大台ヶ原地区PV(パークボランティア)
■同行:シニア自然大学(団体)

<紅葉の日出ヶ岳>
1984年(昭和59年)以来、実に26年ぶりの大台ケ原行きとなる。子どもがまだ小学生だった頃、家族で東大台をハイキングしたことがあった。今日は、シニア自然大学の環境科の仲間たちと大台ケ原の自然観察会。近畿で一番早い紅葉を愛でると共に、山岳自然公園の保護・保全のあり方を考える研修のハイキングでもある。
 天気予報では晴天のはずが、奈良県に入ると雨となり先が思いやられる。なにせ大台ケ原は日本有数の多雨地域である。しかし川上村を過ぎて、R169から大台ケ原への県道に入る頃から晴れ間も広がり、1500m以上は紅葉が晴天に映える天気となる。麓が晴れても山は雨が常識の大台ケ原も、今日ばかりは逆転である。
―東大台コース― (Route Map)

駐車場 1.9km 日出ケ岳0.8km正木峠0.7km正木ケ原0.4km尾鷲辻0.9km牛石ケ原0.6km大蛇ー1.5km尾鷲辻 2.0km 駐車場(全8.8Km)
 ビジターセンターで大台ケ原地区パークボランティアガイドの出迎えを受ける。ガイド氏から大台ケ原の現状と森林再生への取組み、国立公園内での諸注意のお話のあと、2班に分かれて東大台ハイキングコースに入る。今年の猛暑で木の実が不作で、クマが出没しているという。

 東大台コースは日出ヶ岳1695mをピークとして1350mまでの標高で一周約8.8Km、植生垂直分布によれば、亜高山針葉樹林のほぼ下限に位置している。おおむね針葉樹を主体とした森を形成してしているが、ブナ、ミズナラ、シナノキ、タンナサワフタギなどの広葉樹も混交している。針葉樹の代表的な樹種はトウヒ、ウラジロモミで、特に大台・大峰のトウヒは日本の南限に当たり、学術的にも大変貴重な森と言われている。

大台ケ原駐車場

パークボランティアの出迎え
1.ビジターセンター〜日出ヶ岳
 日出ヶ岳に向かって緩やかに森林帯を登る。足元は一面のミヤコザサだが注意してみると背丈が低く、まるで剪定をしたかのように高さが揃っている。実は野生の鹿が上部の柔らかい部分を食べているのである。防鹿柵の内外のミヤコザサを比較するとその差は一目瞭然である。またトウヒなどの幹は網目のネットで覆われているものが多いが、これも鹿の食害防止対策であり、その数2万本に及ぶとのこと。鹿との戦い?を眼前に見る。環境省は平成16年来、大台ケ原を7つの植生ブロックに分けて、森林を再生するための実験に取り組んでいるとのこと。

ウラジロモミ、トウヒの森を歩く

ミヤコザサと防鹿柵

1600mを越えると木々が紅葉
 標高が1600mを越えてくると紅葉が鮮やかさを増す。熊野灘を望む展望デッキ付近はカエデの紅葉が見事である。階段の木道を上り詰めると日出ヶ岳である。日出ヶ岳は大台ケ原の主峰、標高1694.9m、一等三角点の標石があり、展望台からは東方に熊野灘、天気がよければ富士山が、西方には大峰山系の雄大な展望が楽しめるが、本日はかすかに海岸線が、また大峰山系が雲間に浮かぶ。

日出ヶ岳直下の紅葉

日出ヶ岳をめざして木道を登る

日出ヶ岳頂上

日出ヶ岳一等三角点
2.日出ヶ岳〜正木峠
日出ヶ岳山麓から正木峠への上り階段は、シロヤシオ(ゴヨウツツジ)とカエデ(オオイタヤメイゲツ)の紅葉・黄葉のトンネルが続く。

紅葉のシロヤシオ

黄葉のオオイタヤメイゲツ
3.正木峠〜正木ヶ原
 正木峠から正木ヶ原にかけては、大台ケ原の風景として定着したトウヒの立ち枯れが広がっている。かつては原生林を形成していたが、昭和34年の伊勢湾台風によりかなり倒木し陽光が差し込むようになってコケが衰退、また昭和36年に現在のドライブウェイが開通し、多数の入山者が林内に踏み込むようになった。更に増加したニホンジカによる樹皮の食害、大気汚染の影響などの様々な要因により急速に衰退した。なお、立ち枯れていた木々も近年の台風によって倒れ、現在の姿となったとのこと。

立ち枯れのトウヒ林

正木ヶ原へ続く木道

正木ヶ原から正木峠を振り返る
4.尾鷲辻〜牛石ヶ原
 牛石け原には、魔物を封じ込めたと言う伝説が残る巨大な「牛石」がある。綺麗に刈り込まれたミヤコザサの草原は鹿のお陰?である。コースのほぼ中間点、神武天皇東征にまつわる記念碑の下で休憩する。この先、大蛇ー分岐付近では野生のニホンジカに遭遇。人慣れしているのか近づいても逃げる様子もない。

牛石ヶ原を行く

神武天皇東征記念碑

野生のニホンジカ(大蛇ー分岐付近で)
5.大蛇ー(だいじゃぐら)
 シャクナゲの森の先に大蛇ー(だいじゃぐら)がある。大台ケ原で最も雄大な風景が見られる自然の展望台。岩場の鎖をしっかり握り、恐る恐る先端部へ。西方に目をやると原生林を割って中ノ滝が流れ落ち、その左方に西ノ滝も望まれる。東の滝は見えないが、これらの水を集めて眼下800mには東ノ川が蛇行している。絶壁の上に広がる台地をみれば、大台ケ原が隆起準平原であることを実感できる。
 ほとんど休憩のないまま歩くこと8Km、学習しながらのハイキングは登山以上に疲れる。空腹とトイレの我慢で自然に足早になる。16:10ビジターセンターに到着するや否や一斉にトイレに駆け込む。1回¥100の有料トイレであるが、森の再生基金となる。

大蛇ーから不動返ーを俯瞰

大蛇ー

大蛇ー突端にて

隆起準平原を実感
6.尾鷲辻〜中道
 大蛇ーから尾鷲辻まで戻り、中道をビジターセンターまで歩く。中道の斜面は切り株が目立つ。伐採された木の根が浮き上がっている様子は木曾赤沢林を思い出す。シオカラ谷上流にはバイケイソウ、トリカブトの群生地があるが、これらはいずれも有毒性で、鹿も食べない。

中道は切り株道

間伐材で幼木保護

シオカラ谷上流のバイケイソウ、トリカブト群生地
 今日は、好天に恵まれ、近畿で一番早い紅葉を愛で、大蛇ーから中ノ滝も見え、鹿にも出会えた満足の一日であった。最後にガイド氏から大きな宿題をいただいた。国を挙げて大台ケ原の森の再生に取り組んではいるが、なかなか実が上がらない。望ましい自然再生のあり方を皆さんで考えてくださいと。
 好天のもと、貴重な自然林の残る大台ケ原の紅葉を愛でながらのハイキングは素晴らしかった。26年前と比べると自然保護の木道が増えたが、トウヒの立ち枯れが目立ち痛ましい。ガイド氏の説明では、立ち枯れは酸性霧の影響もあるが、鹿の食害が一番の原因とのこと。自然林の再生と保護の取組みの成果が上がることを願う。動植物との共生、自然保護と開発との調和等々の難しさはあるが、「癒される自然」「自然からの恵み」を後世に残さなくてはとあらためて思った一日だった。大変お忙しい中、熱心にガイドいただいたパークボランティアの皆さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。
本文はシニア自然大学環境科のページを一部改変したものです。

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思い出アルバム(1984.11.4)

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