やまぼうし 2020.5.28更新/2006.7.30
立山の自然を歩く
 ■日時:2006.7.27(木)〜7.28(金) 曇時々雨
 ■場所:立山 美女平〜ブナ平、弥陀ヶ原、天狗平、室堂平
 ■交通:富山駅から富山地鉄貸切バス
 ■主催:シニア自然大学 環境科

 参加:25名
北アルプスの立山は本州中部山岳地帯の中にあって、屈指の高山植物や雷鳥の生息する代表的高山です。低山帯のブナ林、亜高山帯の高層湿原、そして高山のお花畑。しかしブナ坂のブナはジーゼルバスの影響で枯れ死が続き、立山アルペンルートをなす室堂一帯は、観光開発により著しい自然の変革が行われています。今回、シニア自然大学の仲間25人と共に、1泊2日の自然観察ツアーに参加する。富山駅集合、貸切バスに立山自然保護ネットワークの講師をお招きして、山岳自然公園の保護・保全の実態を現地で学びました。
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立山概念図

第1日 7月26日(木) 曇一時晴れ
@美女平からブナ平 13:00〜15:30
 標高980m、美女平は弥陀ヶ原高原の入口にあたり、ここから1180mのブナ坂まで自然観察道が整備されているが、観光客は素通りしてしまう。見所はタテヤマスギ(アシウスギ)の自然林とブナ林である。 タテヤマスギは京都のアシウスギの一種で、樹冠が丸みを帯びている。葉が柔らかく雪がつきにくい構造をしている。樹齢数百年はあろうかという巨樹が林立している。年間100万人を越える観光客を運ぶバスの排気ガスや酸性霧によって、車道周辺のスギやブナは枯れ死の運命にあり、樹冠はすでに枯れかかっている。

タテヤマスギ(アシウスギ)の巨樹
*タテヤマスギ(アシウスギ)の特徴:樹冠が丸みを帯びる。葉が柔らかく、積雪しにくい。


ぬかるみの自然観察路を行く

タテヤマスギが林立する。林床はチシマザサ。

地べたを這って、ツルアリドウシの小さな花が

殿下(秩父宮)スギとブナ

ブナ坂を登る。ブナの樹冠が枯れかかる。

大観台から、落差350mの称名滝が覗く
アルペンルートで必ずバスが一時停車して見るのが滝見台からの称名滝。我々はもう少し上流の大観台まで近づく。生憎の霧で、1Km先の滝の音は聞こえるが、姿が見えず。その音がお経を上げるときの称名のようなのでこの名前がついたという。 あきらめて退散しようとした一瞬霧が晴れて滝の姿が覗く。落差350mで日本一、立山の雪解け水と梅雨末期の雨を集め、4段に分かれて流れ落ちる様は壮観である。

A天狗平 15:50〜16:50
 バスは標高2350mの高山帯にある宿舎天狗平山荘に到着。夕食までの間、宿舎周辺の高山植物を観察する。
チングルマ、イワカガミ、ミツババイカオウレンなど高原の花が咲く。晴れ間が広がり、雲の切れ目に室堂方面や、富山平野に沈む夕日が空を赤く染める。夜は満天の星が輝き、明日の天気を約束してくれるようだ。

宿舎 天狗平山荘から室堂方面を望む

木道で高層湿原の植物を観察

B宿泊研修 19:30〜20:30
 山荘なので宿泊は4畳に4人の詰め込みだが、食事は高級ホテル並みで驚く。山菜には美女平で見た、タテヤマスギの林床を覆うチシマザサの筍が付く。
夕食後はゆっくりとくつろぎたいところだが、観光旅行と違い、これから研修が始まる。食堂で、講師持参のパソコンとプロジェクターを使い、危機的状況にある日本のブナの植生や高山植物についての講義が始まる。 講師はNPO法人立山自然保護ネットワーク会長で、国際的な植物学者でもある。研修後の2次会は、消灯時間過ぎまで熱心な討論が続き、なかなか寝かせてもらえない。

富山平野の夕焼け

食堂での研修

ブナの世界的分布について

第2日 7月28日(金) 曇時々雨
@室堂平 8:20〜10:00
 前夜の満天の星も一夜明けたら深い霧の中。室堂2450mでは気温11℃、カッパを着て風雨の中の観察となる。遊歩道は100万人の足に耐えるよう、石を埋め込んだコンクリート道が縦横に走り、軽登山靴では歩きにくいことこの上ない。 ハイマツの中の高原のお花畑も造園されたようで味気ない。雷鳥が段差のある遊歩道を渡れるようにとの配慮があるそうだが、これでは雷鳥も退散する。どうも不自然な自然でした。立山連峰を映す名勝ミクリガ池も、ガスの中に雪渓がちらりと覗くだけであった。

室堂ターミナルから観察路に出る

石畳道が縦横に走る室堂平

雪渓のミクリガ池

雪の壁が残る木道

シナノキンバイです

立山自然保護センター



A弥陀ヶ原 立山カルデラ 10:45〜11:50
 室堂から亜高山帯の弥陀ヶ原に下る。弥陀ヶ原ホテル前から、ダケカンバ、オオシラビソの樹林を縫って立山カルデラ展望台に向かう。ベニバナイチゴの散策路沿いには、世界でここにしかない希少種キヌガサソウが白い花をつけるが、その数は年々減少しているという。立山カルデラは旧立山火山の火口が崩れたもので東西5.6Km、南北3.6Kmの巨大なものです。霧の中に、辛うじて噴煙を見ることができました。

ダケカンバ、オオシラビソの樹林を縫って

左手下方にカルデラが広がる

ウラジロナナカマド



B弥陀ヶ原 高層湿原 12:55〜14:10
 弥陀ヶ原は、標高2000mの溶岩台地に広がる東西20Km、南北3Kmの日本一の高さを誇る高原です。弥陀ヶ原ホテル5Fから富山平野を展望しながら弁当を広げる。午後、木道を辿り、亜高山帯の植物群や約3000箇所もあるという餓鬼田(池塘)の点在する湿原を観察する。湿原の中に、ハイマツに類似したハッコウダゴヨウが幹を斜上させている。

弥陀ヶ原高原観察路を行く。湿原に点在する餓鬼田とハッコウダゴヨウが特徴的景観をつくる。

*餓鬼田:湿原に点在する池塘を、仏教的伝説に因んで餓鬼の耕す田んぼと呼ぶ

弥陀ヶ原ホテルで湿原を眼下に弁当を広げる

木道の観察路を行く

餓鬼田は砂の混入等で、水生植物が少ない

チングルマの群生

研修まとめ

弥陀ヶ原ホテル

出会ったお友達―


ブナの実生(美女平)

ツルアリドウシ(美女平)

ヒメカンアオイ(美女平)

カメバヒキオコシ(美女平)

ヨツバヒヨドリ(美女平)

トリアシショウマ(美女平)

ゼンテイカ(ブナ平)

ツガザクラ(天狗平)

シナノキンバイ(室堂)

ハクサンイチゲ(室堂)

タカネシオガマ(室堂)

イワギキョウ(室堂)

ベニバナイチゴ(弥陀ヶ原)

コイワカガミ(弥陀ヶ原)

キヌガサソウ(弥陀ヶ原)

チングルマ(弥陀ヶ原)

まだまだ沢山の植物を観察しましたが、とりあえず筆者のカメラに収まったものだけ掲載します。


観察会を終えて


弥陀ヶ原にて
 2日間わたる立山の自然環境観察会を終える。天候の急変する不安定な天気でありましたが、いろいろな姿の立山を観察することができたのではないかと思います。年間100万人を越える日本有数の観光地立山の自然環境の現状をどうお感じになったでしょうか。タテヤマスギやブナの枯れ死、高層湿原植物種の減少、雷鳥生息数の減少等々。山岳の自然環境保全が如何に大切かを痛感した観察会でした。しかし、日本は世界に誇れる自然がまだまだ残っています。我々はもちろん、世代に引き継いで100年、200年の計を持って維持していきたいものです。(了)
撮影・編集/平山、企画/青木・田中晃
立山連峰縦走へ

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